名古屋地方裁判所 昭和39年(ワ)2652号 判決 1971年10月29日
原告 竹村俊一
被告 住田さだ
右訴訟代理人弁護士 花村美樹
参加人 愛知県知事 桑原幹根
右訴訟代理人弁護士 花村美樹
右指定代理人 加藤学
<ほか二名>
主文
被告は原告に対し別紙目録記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
(原告)
主文同旨。
(被告)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
≪以下事実省略≫
理由
一、本件土地がもと原告先代竹村為治郎の所有であったことおよび同人が昭和三五年三月一八日死亡したことは当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫を総合すれば、右為治郎が死亡したことにより、同人の直系卑族である竹村茂留、同昭夫、伊藤なみを、伴房子および原告が相続により本件土地を共有し、さらに同四一年一月一日、遺産分割協議の結果、原告がこれを単独で所有するに至ったことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
二、また、国が昭和二二年一二月二日付で自創法第三条に基づき本件土地を買収したこと、被告が同三六年一一月に国から右土地の売渡を受け被告に対する所有権移転登記が経由されたこと、本件買収令書の名宛人が前記竹村茂留とされていたこと、はいずれも当事者間に争いがない。さらに本件買収当時の本件土地の所有者が竹村為治郎であったことも弁論の趣旨に照らして被告の自白するところと認められる。
そして≪証拠省略≫を総合すれば、本件買収当時本件土地の所有者は土地台帳上も竹村為治郎の所有であったことが認められ、右認定に反する証拠はない。ところで、≪証拠省略≫によれば、本件土地は昭和二五年八月一日付で所有権保存登記がなされているため、本件買収当時の登記簿の存在或いはその内容を直接に認定する証拠は存しないが、土地台帳は登記簿の補助ないし基礎をなす重要な帳簿であるから、本件買収当時、本件土地が登記済であったならば特段の事情の認められない本件に於ては、登記簿上も竹村為治郎の所有であったことが推認できるのであり、また本件土地が末登記であったとすれば、右土地台帳の記載により、何人もその所有者が竹村為治郎であったことを知り得たものである。
してみれば、本件土地は、買収当時竹村為治郎の所有であり、このことは前記公簿の閲覧によって何人も容易く知り得たところであるから、これを竹村茂留の所有としてなされた本件買収処分には重大かつ明白な瑕疵があるものといわなければならない。
この場合、仮に被告主張のように竹村為治郎が老令であり戸籍上その長男である竹村茂留と同一世帯を構成し、茂留において事実上世帯を主宰していたとしても、なお右処分の瑕疵が重大明白であると認めるに妨げはなく、また、竹村為治郎が右買収の事実を知りながらこれに対して異議を述べず、買収対価が右茂留により受領されたとしても、右瑕疵が治癒されるものではない。
三、よって、本件買収処分は、その余の点につき判断するまでもなく無効であり、本件土地の所有権は原告にあるから、登記名義人である被告は原告のために本件土地の所有権移転登記手続をなす義務がある。
四、以上の次第であるから、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 越川純吉 裁判官 丸尾武良 三宅俊一郎)
<以下省略>